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2024.07.23 /
最終回:住まいのコラム
暑さ極まる季節となりましたが、皆さまはいかがお過ごしですか? 我が家の家庭菜園では、暑さの大好きなオクラの花が毎朝可憐な花を咲かせています。 ところで「住まいのコラム」の1回目は平成29年10月でした。 今年で7年目、115回目のコラムになりますが、今回で最終回とさせていただきます。 振り返ってみるとかなりのボリュームになっていて感慨深い思いがあります。 私の住まいにかかわる仕事人生のほとんどは、最初にお客様と接点を持つ営業の仕事でした。 若い頃は、お客様との打ち合わせの中で苦労したり失敗したり、たまに喜んでもらえたりして嬉しかったことや、住宅の企画や事業の戦略を考えていく頃になると、いつも悩んでいましたが、深く考える過程で仕事の枠を超えた多くの学びを得ることも出来ました。 また、プライベートでは一息ついて楽しかったことが多くありましたが、そこで目にしたことや耳にしたことを、気付かぬうちに仕事と関連づけて考えてしまうこともありました。 そんな経験から得られたことを思いつくまま、長きにわたり皆様のご厚情に甘えて話し言葉で書いてきたコラムでしたが、最近は時の移ろいを感じることも多くなり、今年の夏の盛りを機会に「住まいコラム」を閉じさせていただこうという思いに至りました。 素人の駄文にもかかわらず、長きにわたり「住まいのコラム」を読んでいただいた皆様、そしてこのようなコラム発表の場を作っていただいた渡邊工務店の皆さまに深く感謝申し上げます。 最後に、「住まいのコラム」を読んでいただいた皆さま、渡邊工務店の皆さまのご健勝と益々の発展を祈念いたしまして私の感謝とご挨拶とさせていただきます。 長きにわたり誠に有難うございました。 令和6年7月23日 本橋平和 ■施工実績について詳しくはこちら ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2024.07.04 /
第114回:モダンと和風
モダンを直訳すれば“現代的な”という意味になり、建築でいうと洗練されていてシンプルなデザインの中に特徴があることだと思います。 シンプルモダンの家は様々な住宅会社が提案されていますね。 モダンの対義語はクラッシックで“古典的な”という意味で、デザインの傾向としては装飾が華美になり、その目的はデザインで権威や階層を明認させたように思います。 建築においてはそれに疑問を持った建築家たちが、建物本来の合理性や実用性を追求すべく作り出したのが、無駄を極力排除したモダン建築です。 ところで、現在は伝統的な数寄屋造りも、誕生当初はそれまでの武家の伝統的な書院造りに対して、当時の先進的な商人や利休のようなインフルエンサーとしての茶人が作り出したモダン建築でしたが、歴史の中で伝統的、古典的な建築になっていったのかなと思います。 クラッシックのイメージの強い和風建築にもモダンテイストを加えることで、現代的な心地よい空間を作ることが出来ると思います。 モダン和風の建物やモダンテイストの空間設定を考えてみたいと思います。 ◇ 現代アートを取り入れた和の平屋 渡邊工務店の施工実績より 和テイストですが、玄関ホールの壁全体にモダンなオブジェが飾ってあって象徴的です。 対比的に和テイストの室内や京都の竜安寺石庭のようなお庭がモダンに感じられます。 ◇ 照明器具でモダンな空間に“アルテトラ”のご紹介 和風モダンな照明器具は数多くありますが、和風モダンな照明は器具の造形だけでなく、夜の照明効果によって余分なものを視覚から遠ざけつつ、非日常の光の空間を作り出します。そのため、モダンな和風空間作りが可能になると思います。 ここでは一例として、以前訪れた小豆島オリーブ園内のイサム・ノグチの照明器具や家具などをコレクションしたミュージアム“アルテトラ”をご紹介いたします。 “1951年、イサム・ノグチは岐阜県長良川の鵜飼を訪ねました。その際、宵闇に光を放つ提灯に目を奪われます。代表作「AKARI」シリーズは、和紙や竹、木でつくられたその提灯にインスパイアされ誕生しました。 「光の彫刻」とも呼ばれるにふさわしく、美しさと使いやすさを極めており、光は和紙を通してほどよく分散され、部屋全体を柔らかな光で包み込みます。” 小豆島オリーブ園 光のアートギャラリーアルテトラ ホームページより引用 ◇ 障子紙とふすまの張替え事例 費用が掛からないようにする工夫として、障子やふすまなどの建具を変えるのではなく、障子紙やふすまの張替えをDIYでモダンに設えて室内の雰囲気を変えてもいいですね。 伝統的な和風の建物も工夫次第でモダンテイストの暮らしが実現できると思います。 皆様の生活スタイルが広がる機会が増えれば嬉しく思います。 ■施工実績について詳しくはこちら ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2024.06.04 /
第113回:自由空間のある家
かつて、子供たちに「なんで勉強するの?」と聞かれて、「人生の自由を手に入れるためかな。」と答えたことがありました。 子供たちには色々な夢があると思いますが、勉強を重ね知識や知見を深めていくと、将来の夢の選択肢は広がりその夢を高いレベルで実現する為の準備もできていくと思います。 たとえ青春時代に挫折をしてもその経験は次へトライする時の財産となり、きっとその後の人生を豊かにしていくと思います。 そんな姿勢は大人になった時に様々な職業や世界で活躍する可能性が広がり、人生の選択肢の自由が広く深くなると考えます。 住宅にも同じように人生の夢に貢献してくれる間取りがあるように思います。 それが人生の選択肢の自由を広げてくれる自由空間のある家です。 これからの日本は成熟した長寿社会で人生は長い道のりを歩み様々なことが起ります。 家を建てた時はどこかで勤めていても、起業したり、勤めながら副業をしたり、奥さんが自宅で事業をおこなったり、趣味を極めるスペースから例えば音楽や絵筆の趣味が高じて誰かに教えるようになったりと多様な人生が待っています。 人生は100年時代となりましたが還暦の60歳になったとき、20歳で成人してから60歳の還暦までの時間と同じ期間を100歳まで過ごすことになります。 新入社員がベテランになり管理職になるのですから例え60歳の手習いで始めた趣味も師範級の知識を持ち、人に教えられるレベルになってもおかしくありません。 そんな人生の自由を楽しむためのスペースとして自由空間のある家を考えて頂ければ幸いです。 自由空間は概念の間取りで物理的に何もないインナーガレージや大きめの納戸スペースと変わりません。 しかしながら未来の自由を求めて今から想いを馳せ、将来困らないで有効活用できるように玄関や出入り口の動線、防音工事、界壁工事、防火対応、電気やガスの配線、天井高や窓の位置と大きさを考えておくのも良いと思います。 1⃣ 余暇の自給自足の為の自由空間 人生100年時代は定年になった時にもう一度現役時代と同じ期間を過ごします。 マラソンに例えると定年はゴール間近ではなく折り返し点を回ったばかりの所です。 長くて有り余る余暇時間を何も手を打たず家で無為にしていれば苦しくなるばかりです。 余暇の時間を自給自足するアクティブシニアの暮らし方が望まれるように思います。 自ら好きなことを極め、同じ価値観を持つ人たちとコミュニケーションを取り、いずれは指導するレベルまでなることができれば現役時代に勝るとも劣らない充実した暮らしが送れるように思います。 その拠点として真っ白いキャンパスのような自由空間を予め間取りに設定しておいて将来具体的に活かして頂ければと思います。 2⃣ 起業や副業、テレワークや在宅の仕事をする拠点となる自由空間 これからは会社勤めをしながら勉強や経験を積んで独立して起業したり、ダブルワークで副業したり、奥様が自宅で起業するケースも増えてくると思います。 将来そうなった時、予め快適に生活できるような間取りのスペースを自由空間の考え方で用意しておくことは有効だと思います。 3⃣ 2世帯の時間経過に対応する可変な間取りの自由空間 家を新築した時には将来親と同居して介護するとか、子供たちと同居するとか判らないことが多いと思います。 そんな時には上記のような自由空間を設定しておいて普段は多目的スペースとして活用して、その時がきたときにリフォームすればプライバシーの保たれた安心した暮らしが実現します。同居が終わった後や、将来同居が無かった時には貸し出して第三の年金を得ることで、老後の暮らしに安心をもたらすことができると思います。 4⃣ 経済的な自由に貢献する自由空間 自由空間を将来リフォームして賃貸にする場合は、アパートでも事務所でも近隣においていくらで貸し出されているか確認してみて下さい。 相場の賃料を賃貸坪数で割ると一坪当たりの賃料が出てきます。 仮に坪当たり6千円とすると10坪のスペースで賃料6万円になります。 老後には第三の年金となり、住宅ローンが残っているとローン返済の原資となります。 リフォームのやり易い工夫をすれば工事費用は抑えられ、償却資産として賃料収入から控除できますし、事業用のローンを借りればその利息も経費に計上できます。 自由空間の考え方のご参考に渡邊工務店の施工事例を紹介させて頂きます。 お茶室のあるモダンハウス 快適な住空間とビジネスが融合した店舗兼用住宅(ヘアサロン) 店舗兼用住宅”働く”が楽しくなる”ペット”と住まう家 ビルトインガレージのある猫と暮らす家 渡邊工務店のホームページ内にある施工実績には他にも事例がありますのでご参考にご覧いただければ幸いです。 ■施工実績について詳しくはこちら ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■ワタナベビレッジについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2024.05.02 /
第112回:四季を感じる家
4月の花を惜しみつつ、新緑に目を奪われる5月となりました。 4月の新年度の風物詩として学校では入学進級、会社では異動や新入社員も加わって緊張もしますが、新緑の芽吹きとともに5月になると肩の力が抜けてきて、実力を発揮する活力が湧いてくるように思います。 日本には四季の移ろいがあり、暮らしの中にそれぞれの季節に応じた変化があって、程よい刺激と活力の源になっているように思います。 ハワイのような温暖な暮らしも、ヨーロッパのようなわずかな夏を楽しむ素敵な秋冬も、旅行で訪れると良いかもしれませんが、春夏秋冬の季節がある日本では、それぞれの季節の機微を感じながら暮らすことで、様々な変化や豊かさを楽しむことができ、愛着が湧きます。 四季の機微は、日本人の情緒豊かな感性を磨いて、芸術や文化だけでなく、私たちの日常の暮らしを豊かにしているのではないかと思います。 そのことは、住まいの造りにも深く関わっているように思います。 昔の日本の建物では、冬の寒さは暖を取り着物を重ね着してやり過ごすことはできますが、夏の暑さはどうしようもないほど厳しかったようです。 吉田兼好は徒然草に「家の作りやう(よう)は夏をむね(旨)とすべし 冬はいかなる所にも住まる 暑き比(ころ)わろき(悪い)すまひ(住まい)は たへ(耐え)難き事なり」と書いており、住まい造りの言葉として広く知られています。 よって木造軸組建築は本来的に夏を快適に過ごすように造られていると思います。 垂直に建てられた柱を根太(ねだ)、胴差し(どうさし)、貫(ぬき)、長押(なげし)、桁(けた)、梁(はり)などで横に繋いだ木造軸組工法は、建物の外回りに壁を作らずにしておけば、外の風が自由に吹き抜けて涼しく感じられます。 そんな時は蔀戸(しとみど)、遣戸(やりど)、簾(すだれ)、軟障(ぜじょう)、障子(しょうじ)などで境をつくりながら、涼しい風を取り込む暮らしを楽しんでいたように思います。 (渡邊工務店の施工実績より) そして、日本の緯度では太陽が一番高くなる南中高度は夏にはおよそ70度となり、冬はおよそ30度となります。 よって、軒の庇が深ければ、夏の日中は直射日光が室内に入ることを防いで涼しく過ごせ、冬は室内の奥まで日の光が差し込んで暖かい住まいとなります。 このような開放的な住まいでは、視線は自然と外に向かうと思います。 縁側に出て、庭を楽しみ、外の景色をいつでも見ることは、自然と溶け合うような暮らしに親しんできたように思います。 最近の木造建築は高気密高断熱が当たり前で、窓には複層サッシやシャッターを備え、全館空調で快適な生活を四季を問わず過ごすことが出来るようになりました。 しかしながら、折角四季の移り変わりを毎年感じられる日本に生まれたならば、先進の性能や機能を兼ね備えた木造軸組工法の住宅であっても、ときには窓を開け放って風を感じ、四季を感じる贅沢を天然木の風情の中で享受することは代え難い価値があるように思います。 そんな観点からも、天然木の本格木造建築を考えて頂ければ幸いです。 ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■ワタナベビレッジについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2024.04.01 /
第111回:桜とサクラ材
先日、近くの桜公園で桜の開花を目にしました。今年も満開の桜を見るのが楽しみです。 年を重ねるごとに、去年の春と違った春を感じて、あと何回この公園の桜の花を見られるのかなと考えたりもします。 (以前に写真に撮った花曇りの桜公園の桜です。) さくらの名の由来は諸説あるようですが、いにしえの呼び名である田植えの時期にやってくる田の神「クラ」が宿る木「サ」に由来するとされています。 神が宿る場所を表す神座の意味として縁起の良い名前の樹木ですね。 当て字で佐倉・佐蔵などの地名や人名も多く、私の好きな日本酒の銘柄や酒造メーカーにも”桜”の名が多い事もあって、好きな名前の樹木です。 日本人にとって桜とは、花が一斉に咲き、そして一斉に散って落花が風に舞う風情などに思いを馳せるのか、歴史的に見ても切っても切れない深いつながりを感じさせます。 桜の樹にはいくつかの種類があり、花見でよく目にする桜はソメイヨシノです。 ソメイヨシノは日本全国で何百万本も植えられていますが、元は江戸時代に江戸の染井村に発見された木だそうです。 ソメイヨシノの繁殖の特徴に自家不和合性(じかふわごうせい:自己の花粉では受精せず、他者の花粉でのみ種をつけるという性質)があり、受粉して種を作るにはソメイヨシノ以外の桜の花粉でしか種が出来ず、雑種の交配となり純粋なソメイヨシノに育ちません。 そのため、ソメイヨシノは挿し木(増やしたい植物の若い枝・茎・葉などを切り取り土にさして根を出させる方法)若しくは主に大島桜を台木にした接ぎ木(増やしたい植物の茎や枝を他の植物につなぎ合わせる方法)のみで繁殖されます。 つまり、日本全国やワシントンなどの世界各地の有名なソメイヨシノの桜並木は、元をたどれば江戸の染井村のソメイヨシノにたどり着きます。 不思議なことにこれらの桜は、完全なクローン体なので遺伝子が全く同じです。 またサクラは建築の材料としても化粧材や床材に好まれて使われていると思います。 サクラと名前の付く材にはカバサクラがありますが、これは本物の桜ではありません。 木目が美しく、木肌は桜の花のような白さに少し黄色味もあり、美しい人気の木材で床材によく使われていると思います。 床材でサクラ材と言えば、カバサクラのようなところもありますね。 しかし海外ではバーチ(樺)とよばれチェリー(桜)とは区別されます。 植物種としても、樺はカバノキ科で桜はバラ科と別種で区別されています。 日本ではその辺が曖昧ですが、建築材として桜への想いに寄せているのかも知れません。 本来桜材は樺材に比べ少し赤みがあるようで、床材ではブラックチェリーが良く使われると思いますが、少し価格が高くなるかもしれません。 それぞれの無垢材は年月が経つと、黄色みや赤みが増してくるので、その変化も楽しみですね。 日本人が持つ桜への思い入れと、樺材の風合いがマッチして カバサクラと命名したのかも知れません。とても風合いの良い木材だと思います。 サクラと名の付く木材には、色々な樹木の種類や由来があるようです。展示場やワタナベビレッジの銘木館で、実物を体感頂ければ幸いです。 以前ご入居宅をお伺いしたお客様からお聞きしたお話ですが、銘木館で木材の打ち合わせを行った際に展示してあった水目桜の柱を気に入って、和室に床柱として取り入れられていたことを思い出しました。モダンで印象的な雰囲気の和室でした。 水目桜は木の姿かたちやその葉や花が桜に似ているので、桜の名前がつけられていますが、カバノキ科です。樹皮を傷つけると水の様に樹液が出るので、水目桜と呼ばれています。 皆さまもまだ見ぬお気に入りの木材との出会いがあると嬉しく思います。 ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■ワタナベビレッジについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2024.03.05 /
第110回:木材輸出とブランド化
日本における国産木材の輸出について、業界だけでなく林野庁などの行政も後押ししていることはあまり知られていません。 我が国は、戦後造成された人工林資源が利用期を迎え、国産材の需要拡大が急務となっていますが、国内での利用拡大のみならず、海外にも付加価値の高い建築用の木材を輸出して山の資源を守り育てていくことが望ましいと考えられています。 日本の住宅は、量産型のプレハブ工業化住宅やビルダー各社による輸入外国産材をベースにした集成材による柱の見えない大壁工法の住宅が多くなり、外観は奇抜ですが無機質な街並みや内観になってしまっています。 日本各地の社寺などの木造建築や古くからの街並み、そして古民家などは、海外からのお客様の訪問先として人気を博しています。多くの海外のお客様に日本建築の持つ素晴らしさや木材製品の持つ価値に興味を持っていただいていると思います。 下記のデータにあるように、日本は世界的に見ても森林国です。また、東濃桧などのように建築に使用される高付加価値のブランド木材はそのほとんどが人工林であり、伐採期・建築の利用期に入っています。 現在の日本の森林蓄積は約54億㎥になっており、特に人工林蓄積が増加しています。過去50年で約6倍に増加し、近年は毎年約6千万㎥増加しています。 そして、その人工林の樹齢の半数以上が50年以上の利用期に入り、伐採を要する時期に差し掛かっています。 下記の資料は、日本の森林資源の蓄積の推移と5年ごとの等級で表された人工林の面積です。 また、下記の資料によれば、世界の木材の丸太生産量(≒需要量)は増加する見込みですが、その多くは産業用・燃料用であり、付加価値の高い建築用材は多くありません。 まして東濃桧のようなブランド材の価値を浸透させるには、程遠い現状です。 先般のコロナ禍によるウッドショックにより、世界中で木材の価格が高騰し、日本でも住宅建築費が上昇しました。 しかし、世界の木材消費の中心は、付加価値の低い燃料用や産業に使用される丸太が多くを占めており、成長に50年を要する木材を、匠の技を通して高い付加価値を持つ建築材として扱う工務店に携わる者として残念な思いです。 今後の新興国や世界経済の発展とグローバル化を考慮すると、付加価値の高い製材などの木製品の増加も予測されており、このような製品の付加価値を高めて輸出や利用促進に寄与できるように、日本の銘木や桧、杉などの地域ブランド木材が役に立っていければと思います。 日本の銘木や東濃桧のようなブランド材が国産材の付加価値を高め、輸出を後押しして世界から認められることは、渡邊工務店の使命でもあると思います。 日本のインバウンド政策が実り、海外の方々が日本を訪れる機会が増えました。最近では、旅行の内容も成熟し、有名な観光地だけでなく、造り酒屋や田舎の里山にある古民家などの体験型ツーリズムが人気を博しています。そして、そこで触れ合う日本建築に感動されています。 私たちがヨーロッパの古い街並みや小さなお店、市場、ワイナリーに感動を覚えることと同じように思います。伝統的なヨーロッパの建物は古くても手入れが行き届いており、断熱性能などは日本よりも高い性能を誇っています。住宅投資は新築よりも古い建物の維持管理や性能向上に費やされています。例えば、日本と同じ島国のイギリスの建物の平均寿命は、日本の30年よりも4倍以上の140年になります。イギリスは石造りで日本は木造建築といっても、法隆寺は1,300年経っていますし古民家やお寺や神社でも100年以上経った木造の建物は数多く見受けられます。 海外の古い街並みはその土地の風土にマッチし、住む人々や旅行者から愛されています。だからこそ、既存の建物に住宅投資をし、大切に長く暮らすことが重視され、住宅の寿命も結果的に長くなるのだと思います。 下記の表の(100-リフォームの投資割合)が新築の投資割合になります。 日本は世界の中で新築割合が多く、住宅への愛着価値からすると悲しいことだと思います。 私たち日本人は地域や風土に根差した国産材、中でも東濃桧のようなブランド材を活用することが、日本の山の暮らしや産業を守り、景観や治水を守ることに繋がると思います。地域や風土に根差した建築材を育て、それを活用していくことが結果的に海外と同じような愛着のある長寿命の住宅を作っていくことに繋がると思います。また、海外からのお客様にそのような建物を日本人の普段の暮らしの中で感じていただければ、東濃桧などのブランド木材を付加価値の高い建築材として輸出するきっかけになるかもしれません。 そのような資源があるのにもかかわらず、量産型の工業プレハブ住宅や外国産材による集成材のビルダー住宅が建っていくのは少し残念でもあります。 しかしながら、最近古民家再生が脚光を浴びてきたことは、伝統的な木造建築やアンティークな家具や建具に対する愛着の価値観が芽生え、結果的に日本建築が見直されて欧米と同じような住宅の長寿命に繋がることになると思うので、嬉しい限りです。 渡邊工務店としては、地域ブランド材である天然木の東濃桧を活かした本格木造建築を、現代の技術を活かして高いレベルの耐震等級や断熱性能、次世代全館空調「マッハシステム」による空調環境を実現し、ヨーロッパの建物や街並みと同じように、地域に末長く愛され海外の方にも興味を持っていただける建物を供給し、東濃地域の山や森林産業を守ることで、将来的には東濃桧が海外からも引き合いがきて木材輸出に貢献できるような未来の一翼を担えたら、嬉しく思います。 ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2024.01.23 /
第109回:神戸ルミナリエに思う
このたびの令和6年能登半島地震により被害を受けられた皆さまには、心よりお見舞いを申し上げますとともに、一日も早い復興をお祈り申し上げます。 私が住まう神戸は1995年1月17日の「阪神・淡路大震災」から29年となりました。 29回目の「神戸ルミナリエ」が開催されています。 (26~28回は新型コロナウイルスの影響で代替イベントを実施) 「フロントーネ・ガレリア」(メリケンパーク)のイメージ図 「神戸ルミナリエ」は阪神・淡路大震災の記憶を後世に語り継ぐとともに、神戸の希望を象徴する行事として開催されています。 現在の神戸は復興も進み、当時の若者や子供たちは社会の中心となって地域を盛り立てています。 当時の様子は地震の防災学習施設や資料などで知ることとなりますが、この時期になるとテレビや新聞で震災の特集が報じられています。 震災を経験して変わったことに地域の人々の意識があると思いました。当時は誰もが被災者であり支援者でした。自ら出来ることを他の人の為になすことで地域を支えようとの考え方は現在でも地域活動やボランティアそして行政の活動に脈々と流れていると思います。 復興を考える時にレジリエンスという言葉を思い浮べます。 レジリエンスとは、跳ね返り、弾力、回復力、復元力という意味を持つ言葉です。 ストレスと共に、物理学の分野で使われていた言葉でしたが、近年では個人・組織ともに通用する「さまざまな環境・状況に対しても適応し、生き延びる力」として使われるようになりました。 レジリエンスが広く知られるようになったのは、第二次世界大戦でホロコーストを経験した戦争孤児達の追跡調査において、過去のトラウマで生きる気力も萎えて経済的にも精神的にも不幸な人生を送る人達がいる一方、それらの苦しみを乗り越えて幸せで豊かな人生を送っている人達が調査結果で判明し、その違いを明らかにしたことからでした。 人生を分けた違いは、どんな困難や逆境にも押しつぶされることなく「状況に応じて生き抜く回復力」を持っていたか、諦めてしまっていたかでした。 日本は宿命的に天災から逃れられないエリアにありますが、日本人はどんな困難や逆境にも押しつぶされることなく「状況に応じて生き抜く回復力」を持っていると思います。 先程述べた地域の繋がりや行政のサポート、そして住宅業界においても各社の取り組みはレジリエンスを高めることに寄与していくように思います。 渡邊工務店も住宅事業を通じて生き抜く回復力を高めることに寄与できるよう一層取り組む所存です。 ■飛島村と「災害時における電気の提供に関する協定」締結について詳しくはこちら ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2023.12.07 /
第108回:代理人の仕事
海の向こうのロサンゼルス界隈では、フリーエージェントとなる大谷翔平選手の新しい所属球団がどこになるか話題となっているようです。 ロサンゼルス市と名古屋市は1959年(昭和34年)4月1日より姉妹友好都市を結んでいますので、ロサンゼルスにご縁があれば嬉しく思います。 名古屋姉妹友好都市協会ホームぺージより フリーエージェント交渉の窓口は辣腕(らつわん:てきぱき処理する能力があること)の代理人(エージェント)が担っているようです。 高額な契約金に目が行きますが代理人の仕事はそれだけではないようです。 契約金も含めてさまざまな要素を検討して選手が活躍出来るような環境を整備し、相手側の球団も選手が活躍し野球の成績だけでなく球団経営の全てに好影響を出せるよう交渉を通じて課題を顕在化し、双方がウィン・ウィンになるようなプロの仕事をされるそうです。 身近な仕事では医師や弁護士のような仕事も、患者や依頼者の代理人として課題解決の役務をされているように思います。 病院の医師は患者と対峙するときに、病院経営の事を考えて治療はされないと思いますし、弁護士も依頼者の事だけを考えて仕事をされると思います。 このことは当たり前のこととして考えられ、それだけ彼らが敬意を受けている証左(しょうさ)だと思います。 私は住宅の営業スタッフもお客様の代理人として仕事をしていると思っています。住宅を検討される多くのお客様は初めてであり、尚且つ生涯で一度の経験になります。 注文住宅でそれ相応の家を考えていく場合には代理人と呼べるような営業スタッフがいた方が良いかもしれません。 住宅造りにはさまざまな制約や要素があります。 限られた予算や敷地の条件、入居される家族それぞれの想いや家族同然のペットの想い。 好みの材質や生活様式、インテリア、エクステリアの取り合い、近隣との調和など数え上げるときりがありません。 そして場合によってはお客様も考えていなかったような潜在的なニーズや要望が打合せの中から浮かび上がることもあります。 このような条件を踏まえて家造りは設計、施工、材料、そして歴史など深い知識が必要とされますが、多くのお客様は初めての家造りに参加され、そしてそれが生涯で一度の経験になることがほとんどなのは先程申し上げた通りです。 例えば、建築設計士とお客様だけで打合せすると、設計士が優秀な設計技術のプロであっても先ほど述べたような、家造りに詳しい代理人がおらず、十分な知識がないまま進めていくことで、家造りが技術者の独りよがりの仕事になるリスクもあります。 営業スタッフは家造りを遂行する設計士や施工担当、そして現場の職人と常に顔を合わせているのでお客様の立場で問題点や課題を発見し、場合によってはお客様の気が付いていない課題やニーズについて設計士や施工担当のプロ集団の力をもって組織力で解決し家造りに活かしていきます。 このような仕事の仕方は、専門家集団とお客様の間に立ってライフプランの課題を解決するファイナンシャルプランナーとよく似ていると思います。 そして、営業スタッフはそのファイナンシャルプランナーとも、打ち合わせをしてお客様の課題解決をしていくこともあります。 しかしながら、営業スタッフは様々な場面でお客様と折衝していきますが、全てのお客様と契約できるわけではありません。 それぞれの家族の価値観は千差万別ですが、様々なお打ち合わせをさせていただく中で、渡邊工務店の家造りが最高だと評価いただいたお客様と、最終的にご契約させていただて家造りをお任せいただいています。 注文住宅の世界は自動車や家電業界と異なって大手プレハブ10社のハウスメーカの業界シェアはトータルで26%です。 トップ企業でもシェアは一桁で、残りの74%のシェアは工務店が占めています。 このように住宅業界は、お客様の嗜好やニーズや課題が複雑で千差万別なのでプレハブ化や工業化に不向きで、それぞれの注文に向き合う手作り志向の地元工務店が市場を支えていると思われます。 注文住宅においては、自動車のようなビックカンパニーが好まれることなく、地域密着のグットカンパニーが愛されるように思います。 渡邊工務店が116年の社歴を紡ぐのも、このような背景があるからだと思います。 このような市場背景があるので、営業スタッフにとってはご縁の無かった多くのお客様とのお打ち合わせの時間も、大切な家造りの経験値として大きな財産になっています。 注文住宅の営業スタッフは、このようなことからお客様一人一人に真摯な対応のできる代理人としての役割と、能力が必要にされると思います。 だからこそ注文住宅を担うのは、ビックカンパニーではなく地域密着のグットカンパニーになると思います。 ワタナベビレッジ内観 お客様とのお打ち合わせの場としては、総合展示場だけでなく、お客様の施工現場をお借りした完成現場見学会、渡邊工務店の家造りのこだわりがよりご理解いただけるワタナベビレッジやインターネットを通じてお打ち合わせもさせていただいております。 建築の計画に関しまして、お打ち合わせの機会をいただければ幸いでございます。 ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2023.10.31 /
第107回:さつまいもの花
家庭菜園で栽培したさつまいもに綺麗な花が咲きました。 9月初旬に咲いていたのですが珍しいことのようです。 さつまいもに花が咲くことを知らなくて初めてのことで驚きました。 さつまいもの花は気温や日照時間など様々な条件が揃わないと咲かない珍しいもので、日本の環境下ではあまり見かけることができない花だそうです。 花が咲いた株のさつまいもも食べられますが、花が咲いた場合には実がならない場合もあるそうで少し心配しています。 通常さつまいもは、地下にできる芋で子孫を残しますが、地下でうまく芋を作れず子孫を残せなくなる恐れがあると花が咲くといわれています。 そんな心配をよそに今年も美味しいさつまいもが採れることを期待しています。 まだ葉は青々としており、葉が少し黄色くなり芋が甘くなると言われる11月中旬ごろに芋を掘り上げる予定です。 今回、栽培しているさつまいもの種類は、初めて挑戦するシルクスイートです。 さつまいもの花は早朝に咲いて午前中にはしぼんでしまうため、朝顔のように儚い花です。 花言葉は「乙女の純情」と言い、ロマンチックな花言葉でぴったりですね。 さつまいものイメージとは遠いようですが、この二面性の取り合わせは面白く感じます。 6月下旬にさつまいもの苗植えを行いました。 さつまいもは茎苗を土に挿して植えると発根して株になります。 これは栄養繁殖と言い、さつまいもやじゃがいもに見られる無性生殖です。 親の性質をまるまるそのまま受け継いでいくという繁殖の仕方で、俗に言うクローン個体です。 芋苗は弦のようで、これを斜めに植えていきました。 そうすると下の図のように芋がつらなるように成長します。 さつまいもはかつて天候不順の飢饉(ききん)の時に重宝されたほどで、大変育てやすい作物と言われています。 家庭菜園ではもっとも育てやすい野菜といわれ、まず失敗することはないようです。 さつまいもは草丈も低く匍匐性(ほふくせい)で地を這うように育つので、もう一度花が咲くところに出会えることを期待して、今回美味しいシルクスイートが収穫できたら来年は大きめのプランターかグランドカバープランツとして庭の一部に植えてみようかなと思っています。 家庭菜園と面白いガーデニングの取り合わせの二刀流になるよう今から期待しています。 ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2023.09.28 /
第106回:徳川美術館を訪れて
私は現在関西に住んでいますが、先日所用で名古屋を訪れた折に徳川美術館の見学に行ってまいりました。 (徳川美術館正面玄関より、かつての尾張徳川家別邸の表門(通称:黒門)を眺める) 目的は第2展示室に展示されている「猿面茶室」と茶の道具の室礼を見るためでした。 徳川美術館の館内にある「猿面茶室」はかつて名古屋城二之丸庭園にあった御茶室を復元したものです。 見学を思い立った理由は、名古屋城の二之丸庭園にかつて存在した御茶屋「余芳」の移築再建の一部に、渡邊工務店も携わらせて頂くことになったからです。 「余芳」は二之丸庭園に6箇所あった茶屋の一つです。 明治初めに個人の所有となり城外に移築され、昭和48年(1973年)に名古屋市指定文化財となりました。 建物は、平成23年(2011年)に名古屋市に寄贈され、現在は、市が元の位置への移築再建を目指し整備を進めています。 その計画の一環として、渡邊工務店の110余年の歴史の中で蓄えられてきた匠の技を生かして、200年程の歴史ある古材を修理させて頂きました。 「猿面茶室」の復元と異なり「余芳」は名古屋城二之丸庭園内での移築再建となります。 名古屋城二之丸庭園にあった「猿面茶室」ですが、京都の待庵 ・犬山の如庵と並んで茶室として歴史があり国宝にも指定されていたのですが昭和20年(1945年)に戦災により焼失しました。 もともとは織田家がかつて居城とした、清須城内に営まれていましたが、慶長15年(1610年)、名古屋城築城の際に移築され、接待場にあてられていたと伝えられています。 茅葺屋根(かやぶきやね:ススキや藁などの材料を使用して葺く屋根)の素朴な外観を形成し、中柱の隣の二枚障子の口の外には広縁を付しています。 四畳半に台目構えの点前座(てまえざ:茶席で亭主が茶を点てるために座る場所)を添え加えた間取は、古田織部や小堀遠州の好んだものであるとされています。 下記の「猿面茶室」の写真は美術館の内部が写真撮影できない為、当日購入した徳川美術館ガイドブックより転写した画像です。 (猿面茶室の外観) (間取り) (茶道具の室礼) 茶の道具は工具などのものを作る為の道具と異なり、茶の文化を形づくるものとして歴史の中で育くまれてきた日本文化を代表する美術工芸品だと思います。 そして茶の道具の室礼(しつらい:飾りや調度をその場にふさわしく整えること)は本物の数寄屋の建物の中で際立つように思います。 工芸的、美術的価値を際立たせる室内空間は本物の日本建築が醸し出すように思います。 渡邊工務店の家造りを展示場や完成現場見学会で体感頂ければ幸いに存じます。 ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら