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2021.03.19 /
第69回:生産緑地2022年問題とクラインガルテン
住宅業界で2022年問題というと、来年の2022年に都市近郊の市街化区域にある生産緑地に指定されている農地が、指定期限を迎え、大量の農地が宅地として供給され地価の下落を引き起こすか否かという問題です。 「LIFULL HOME'S」HPより (生産緑地の指定解除をめぐる「2022年問題」はどうなるのか?) 現在の少子高齢化の日本と異なり、1970年代頃の高度成長期の日本は人口増の団塊の世代が台頭し、住宅不足が顕著になり地価が高騰し土地神話なる言葉も生まれました。 昨年の日本の出生数は、86万人でしたが、団塊の世代と言われる昭和22年~24年は年平均の出生数は267万人でした。 現在の3倍以上の出生数です。 現在75才前後の皆様で、高度成長を経て今の日本の礎を担ってきた方々です。 不足する宅地供給策と乱開発の防止策として、都市近郊の市街化区域の農地に宅地並み課税(宅地並み課税:農地の固定資産税の課税方法の一つ。将来宅地に転換されることが見込まれるため、今から宅地と同様の課税をしておこうとする方法。)を行うことにより宅地供給を推進するとともに、市街化区域の農地といえども30年間の営農(営農:農業をいとなむこと。)を条件に農地並みの課税を継続する制度を創設しました。 生産緑地法が引き起こす2022年問題は都市近郊の宅地供給増大による地価下落ですが、これから宅地を求め、家を建てる皆様には朗報になるかもしれませんね。 愛知県の平成29年の生産緑地は1110ヘクタール(333万坪)8210ヶ所です。(愛知県都市計画課より) 例えば、宅地開発による減歩5割(5割は道路・公園等の負担)とすると、正味の宅地分は166万坪になります。 そうすると、宅地1区画60坪としておよそ27600区画数の宅地が生まれます。 愛知県の年間分譲戸建数は、9000戸位なので3年分の分譲戸建の規模があります。 現在開発中や売出し中の比較的大きな分譲地は影響が出るかもしれません。 全ての生産緑地が宅地化しないとは思いますが、その割合は興味のあるところです。 その後、2022年以降も営農制度について10年の延長制度等が整備されたこともありますが、実際には兼業や小規模の農家の方も子々孫々、先祖伝来の土地を自分の代で手放したくない方も多く、さりとて従来型の農業そのものを運営することも負担であり悩みの種のようです。 その一つの解決策として、都市農地の貸借の円滑化に関する法律等で生産緑地のまま農地を市民農園等に貸し出すことや、農家レストランやカフェなどの農業に関する施設で町おこし的な事業が認められるようになってくるように思います。 渡邊工務店施工実績HPより そうなると2022年が問題ではなく、豊かな住環境やコミュニィーが創造されるという、幸せな暮らしへのターニングポイントになるような気がします。 ドイツ大使館公式 Twitterより 例えば、ドイツでクラインガルテンという有名な制度があります。 ドイツ語で「小さな庭」という意味です。 19世紀にドイツで開設された集団型・賃貸型の市民農園でドイツ人のシュレーバー医師が、産業革命による工業化・都市化に伴う劣悪な環境下に置かれた労働者や子供たちのために自然と触れ合う必要性を提唱したことから広まりました。 住民はクラインガルテン協会に登録して 、100坪程度の区画を借りて家庭菜園や花壇や芝生の庭としても利用されました。 畑とともに小屋が設置され、区画以外にはクラブハウスや一般に開放された公園・緑地広場や市民農園などの自主運営の管理組織がありました。 都市生活者のレクリエーション、高齢者のリハビリテーション、児童の食育や農作業体験学習などのための、農地の保全や公園の維持を通じて、家族の触れ合いや地域のコミュニティーの育成にも役立っているように思いました。 これから、日本は少子高齢化の成熟した時代を迎えます。 2022年の生産緑地の問題が、アフターコロナのニューノーマルにおいて、都市で暮らす人々の家族やコミュニティーを豊かにするきっかけとなってくれることを願います。 ドイツのクラインガルテンの仕組みや制度は良いお手本になるように思います。 そんな時は、カフェスタイル(コラム:カフェスタイル)の生活スタイルもいいと思います。 GardenStoryHPよりバードフィーダ こんな設えを「小さな庭」に施しても良いですね。 ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら ■最寄りの展示場について詳しくはこちら ■資料請求はこちら -
2021.03.08 /
第68回:数寄屋造りと新しい日本人の家
デザインというと「意匠」の意味に理解されることが多いと思いますが、本来的には、ある問題を解決するために思考・概念の組み立てを行い、それを様々な媒体に応じて表現することといわれています。 渡邊工務店HP施工実績より 例えば、権威を象徴させる為の建物のデザインは、お城や社殿のように装飾的なデザインになると思います。 室町時代に武士勢力が勢いを増すにつれ、建築では書院造が台頭してきました。書院造は、自らの権威を示したい武士達が競うように贅を凝らし、誰もが分かるような格式を表す様式を取り入れたことで、儀式の場へと変わっていきます。 主人の座る上段の間の隣に、2部屋も3部屋もつなげて造ることで、主人の権威を誇示しながら儀式も執り行なう様式へと変化していきました。 身分格差を表すために、上段の間と下段の間に段差を付け、框で仕切られるのが特徴です。 その段差は、格下の段に行くにしたがい、1段ずつ下がっていきます。 主人は、奥の床の間を背にして座り、また主人よりも格上の来客であれば、そこに来客が座ったとのことです。 天井もまた、垂れ壁や欄間で一線を画し、格差を表す様式が取り入れられていました。 武家社会の身分を厳格に区別する為のデザインが書院造であり、習俗として現代の和風建築に引き継がれてきたと思います。 渡邊工務店HP施工実績より 室町時代から織田信長や豊臣秀吉が活躍していた安土桃山時代になると、数寄屋造りの建物が生まれてきました。 商業の発展とともに商人たちも力を持つようになってきました。 そんな時代の流れの中で自由な発想を持ち、書院造のような格式や華美な装飾を嫌った数寄者といわれる自由人や茶人が生まれてきました。 現代ならユーチューブのインフルエンサーのような人達で、千利休はその代表になると思います。 当時の書院造のような格式のある技術様式にこだわらず、敢えて粗末な材料や素朴な丸太を好んで使い、軽妙でお洒落な茶室をはじめとした建物が数寄屋と称されたようです。 但しその後の技術や茶室の文化の深堀は目覚ましく、現代に至って本格数寄屋造りの建物は特別に高価で高度な技術の集積された高級建築となってしまいました。 そういえば本格的な茶室は、シンプルモダンの代表的デザインだと思います。 渡邊工務店HPより日本芸術院賞受賞 白鳥庭園、清羽亭の建築施工 現在の暮らし方の主流となってきた、シンプルモダンなライフスタイルも、他人の目を意識する権威や格式の時代から自分たちの暮らし方や生活のスタイルを大切にしたいというライフデザインの変化によって生まれてきたと思います。 そこは数寄屋造りの原点の数寄屋の心と相通じるところがあると思います。 書院造のアンチテーゼとして生まれた数寄屋ですが、数寄屋造りの原点回帰として、現在のシンプルモダンなライフデザインと、本来の数寄屋の心が結び付いたシンプル和モダンな住宅が、新しい日本人の家として受け入れられていけばと思います。 不易流行を大切にする渡邊工務店は、数寄屋の心を持ったシンプル和モダンの住宅を、若い世代からアクティブシニアのお客様まで喜んでいただけるようお届けしていく所存です。 ■施工実績について詳しくはこちら ■渡邊工務店の家造りについて詳しくはこちら