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2025.08.01 /
大阪・関西万博「大屋根リング」-未来を包む構造の挑戦
Column002: こんにちは。渡邊工務店コラム編集部です。 現在開催中の大阪・関西万博。皆さんはもう行かれましたか? テレビやネットで話題になっている会場の様子、実際に体験された方も多いのではないでしょうか。 その象徴的存在となっているのが、夢洲会場を囲うように設計された「大屋根リング」です。2025年3月「最大の木造建築物」としてギネス世界記録に認定されています。一見すると未来都市のスカイラインを思わせるこの構造物は、建築技術の結晶であり、思想的なメッセージも込められています。 今回は、建築・構造の視点から、この壮大なリングの構造的意義と設計思想に迫ってみたいと思います。 目次 > 大屋根リングとは何か? > 構造的挑戦:2kmのリングをどう支えるか? > リングが空間をどう変えるのか? > 環境との対話:再生可能エネルギーと木の利用 > 終わりに-未来を支える「水平の思想」 大屋根リングとは何か? 「大屋根リング」とは、万博会場の中心部を円形に囲うように設置された、全長約2km、高さ20mを超える巨大なリング状構造物です。屋根という名の通り、一部は実際に太陽光パネルや木陰を提供する庇のような機能を持ちますが、その本質は「都市を包む水平のランドマーク」としての存在感にあります。 このリングは「地球の命を包む」「自然と共生する」ことをテーマに掲げ、来場者に空と風と緑を感じさせる空間体験を創出します。 構造的挑戦:2kmのリングをどう支えるか? 建築的に見ると、全長2kmに及ぶこのリングは、従来の屋根のスケールを遥かに超えたインフラ級構造物です。以下の要素が特筆すべき技術的特徴です。 ◆軽量化設計:鋼構造を主体としつつも、必要な部分にはCLT(Cross Laminated Timber)やアルミを組み合わせ、全体重量を抑えています。 ◆支持方式:地上からの支柱と吊り構造のハイブリッド。場所によっては空間の開放性を保つために、キャンチレバー状の張り出しも設けられています。 ◆基礎構造:埋立地である夢洲において、地盤の不同沈下を考慮した基礎構造が重要。マイクロパイルや杭基礎によって支持されています。 このような複雑な構造を、環境負荷を抑えつつ建設することは、まさに現代建築の技術と知恵の結晶です。 リングが空間をどう変えるのか? 都市空間において、垂直性と水平性は常に対比される設計要素です。高層ビル群が空へと向かう「垂直の建築」であるのに対し、大屋根リングは「水平のランドマーク」として都市の境界と秩序を示します。 このリングがもたらす効果は、以下の3点に集約されます。 1. スケール感の統一:巨大な会場空間を視覚的にまとめ、来場者に「包まれている」感覚を与えます。 2. 動線の誘導:リングに沿った回遊動線が自然と人の流れを制御します。 3. 象徴性の創出:「都市の天蓋」として、万博の象徴的存在として記憶に残る風景を形成。 環境との対話:再生可能エネルギーと木の利用 このリングは、単なる構造物ではありません。持続可能性をテーマに掲げる大阪・関西万博において、再生可能エネルギーの発電源としても活用されます。 ●太陽光パネルの搭載により、会場の一部電力を供給 ●木材(国産材)を積極的に使用し、炭素固定を促進 ●雨水の再利用や日射調整機能も設計に組み込まれている 建築が環境技術と融合することで、未来の都市空間における持続可能性の実験場ともなっています。 終わりに──未来を支える「水平の思想」 大屋根リングは、構造工学的には困難の連続でありながら、同時に建築思想としても深いメッセージを内包しています。それは「中央集権的な塔」ではなく、「多様性を包む水平の輪」としての都市のあり方。 大阪・関西万博が目指すのは、未来技術の展示だけでなく、人類の共生や地球とのつながりを体験する場。その中心に、このリングが象徴として存在することは、極めて建築的に意味深いものです。 万博の開催は10月13日まで。いよいよ折り返し地点を過ぎ、残り2ヶ月あまりとなりました。まだの方も、もう一度行きたいという方も、今しか味わえないこの機会をぜひ楽しんでください。そして大屋根リングから現代建築の技術力を感じてみてください。 誰もが魅了される木造建築を実現するのは、先人たちから脈々と受け継がれてきた匠の技があってこそ。 日本の誇りともいうべき建築技術を、社寺建築や美しい数寄屋造りにも活かしてきました。 渡邊工務店の匠の技は、まさに先人からの貴重な財産。 私たちは伝統を活かすだけでなく、後世にこの素晴らしい技術を引き継いで伝えていくことにも尽力しています。 飛島村にあるワタナベビレッジでは、私たちの建築へのこだわりを存分にご体感いただけます。 ぜひお気軽にご来場ください。 \ 渡邊工務店創業の地で、本物を見て、体感できる / ワタナベビレッジ 住所 :海部郡飛島村元起三丁目55番地 電話番号:0567-55-7005 営業時間:10:00~18:00 定休日:毎週水曜日(祝日を除く) 📩 木造建築に関するご相談・お問い合わせはこちらまでどうぞ! -
2025.07.16 /
【世界最大の木造建築】
時代を超えて受け継がれる木の壮大な構造美Column001: はじめまして。私たち渡邊工務店は、木を知り、木を活かし、木とともに暮らすことを大切にしている会社です。日々「木」という素材の持つ魅力と向き合いながら、より良い空間づくりを目指しています。 このたび、コラム「木と暮らす」を始めることになりました。 自然素材としての木の魅力や、建築に関するお話、木の家での心地よい暮らし、住まいに取り入れるアイデアなどをお届けしていきます。 木には、人の心と体を癒やし、空間にあたたかさを与えてくれる不思議な力があります。 このコラムが、皆さまの暮らしに木のぬくもりを取り入れるきっかけとなれば嬉しいです。 どうぞ、末長くお付き合いください。 記念すべき第1回は、木造建築のスケールの限界を押し広げてきた「世界最大の木造建築」について、歴代の建物をピックアップしてご紹介いたします。 世界最大の木造建築は、古代から現代に至るまで多くの人々を魅了してきました。これらの建物は、その壮大なスケールと美しいデザインで知られていますが、それ以上に持続可能性や環境への配慮という点でも注目されています。木造建築には長い歴史があり、技術革新と共に進化し続けています。 木のぬくもりと構造美が融合する、壮大な世界をご堪能ください。 歴代「世界最大の木造建築」 1. 【8世紀~】東大寺 大仏殿(奈良・日本) 完成:752年(初建)、現建物は1709年再建 規模: 幅:約57.5m 奥行:約50.5m 高さ:約46.4m 特徴: 奈良の大仏(盧舎那仏)を安置。 再建により初期の3分の2の大きさになりましたが、それでも長らく世界最大の木造建築とされていました。 備考: UNESCO世界遺産 東大寺は8世紀に建立され、その歴史的背景と文化的重要性から多くの訪問者を魅了しています。特筆すべきは、大仏殿が持つ圧倒的なスケールであり、古代日本の技術力と美意識が結集されています。 2. 【1997年完成】大館樹海ドーム(秋田・日本) 完成:1997年 規模: 直径:約178m(木造ドームとしては世界最大級のスパン) 高さ:約52m 特徴: 秋田杉2万5000本を使用 スポーツ・イベント用多目的ドーム 備考: 構造の一部に鉄骨併用だが、屋根は木造 3. 【2007年完成】アヴァディーン大学図書館・センター(ノルウェー)など 傾向:2000年代から欧州・北米でも大型の近代木造建築が増加 特徴:集成材(CLTなど)と鉄やコンクリートの複合構造 4. 【2025年完成】大屋根リング(大阪万博会場) 完成:2025年3月 規模: 面積:約61,000㎡ 直径:約615m 高さ:約20m 特徴: 世界最大の木造屋根構造物としてギネス世界記録に認定 使用木材:約70%が国産杉・桧 設計:藤本壮介 歩道「スカイウォーク」(全長2,025m)付き 備考: 万博終了後は一部保存が決定 そしてついに登場するのが、2025年大阪・関西万博の象徴「大屋根リング」。このリング型の大屋根は、「世界最大級の木造建築構造」として、歴代の記録を塗り替えるスケールで、ギネス世界記録にも認定されました。全国の森林から供給された木材を用い、「日本全国から集まった木が人々をつなぐ」ことを象徴するデザインです。 世界中から集まる人々を包み込むように広がる大屋根は、環境建築・伝統技術・最先端工学の結晶といえるでしょう。 木造建築の未来 気候変動への対応が世界的な課題となる中、再生可能で低炭素な素材である「木」は、今後ますます重要な役割を担っていきます。 「大屋根リング」や「木造高層ビル」のような構造が現実となった今、木造建築は単なる「伝統建築」から「未来をつくる技術」へと進化を遂げつつあります。木造建築は、過去から現在、そして未来へとつながる建築文化の柱です。 社寺建築から巨大ドーム、高層ビル、そして大屋根リングへ── 木という素材の限界に挑む、人間の知恵と技術の軌跡を、ぜひ感じてみてください。 私たち渡邊工務店も、未来に誇れる木造建築を皆さまと共に創造していきたいと考えています。 👉 次回の記事では、2025年「最大の木造建築物」としてギネス世界記録に認定された、大阪万博のシンボルである大屋根リングについてご紹介します。 📩 木造建築に関するご相談・お問い合わせはこちらまでどうぞ!