2024.05.02 /
第112回:四季を感じる家
4月の花を惜しみつつ、新緑に目を奪われる5月となりました。
4月の新年度の風物詩として学校では入学進級、会社では異動や新入社員も加わって緊張もしますが、新緑の芽吹きとともに5月になると肩の力が抜けてきて、実力を発揮する活力が湧いてくるように思います。
日本には四季の移ろいがあり、暮らしの中にそれぞれの季節に応じた変化があって、程よい刺激と活力の源になっているように思います。
ハワイのような温暖な暮らしも、ヨーロッパのようなわずかな夏を楽しむ素敵な秋冬も、旅行で訪れると良いかもしれませんが、春夏秋冬の季節がある日本では、それぞれの季節の機微を感じながら暮らすことで、様々な変化や豊かさを楽しむことができ、愛着が湧きます。
四季の機微は、日本人の情緒豊かな感性を磨いて、芸術や文化だけでなく、私たちの日常の暮らしを豊かにしているのではないかと思います。
そのことは、住まいの造りにも深く関わっているように思います。
昔の日本の建物では、冬の寒さは暖を取り着物を重ね着してやり過ごすことはできますが、夏の暑さはどうしようもないほど厳しかったようです。
吉田兼好は徒然草に「家の作りやう(よう)は夏をむね(旨)とすべし 冬はいかなる所にも住まる 暑き比(ころ)わろき(悪い)すまひ(住まい)は たへ(耐え)難き事なり」と書いており、住まい造りの言葉として広く知られています。
よって木造軸組建築は本来的に夏を快適に過ごすように造られていると思います。
垂直に建てられた柱を根太(ねだ)、胴差し(どうさし)、貫(ぬき)、長押(なげし)、桁(けた)、梁(はり)などで横に繋いだ木造軸組工法は、建物の外回りに壁を作らずにしておけば、外の風が自由に吹き抜けて涼しく感じられます。 そんな時は蔀戸(しとみど)、遣戸(やりど)、簾(すだれ)、軟障(ぜじょう)、障子(しょうじ)などで境をつくりながら、涼しい風を取り込む暮らしを楽しんでいたように思います。
(渡邊工務店の施工実績より)
そして、日本の緯度では太陽が一番高くなる南中高度は夏にはおよそ70度となり、冬はおよそ30度となります。
よって、軒の庇が深ければ、夏の日中は直射日光が室内に入ることを防いで涼しく過ごせ、冬は室内の奥まで日の光が差し込んで暖かい住まいとなります。
このような開放的な住まいでは、視線は自然と外に向かうと思います。
縁側に出て、庭を楽しみ、外の景色をいつでも見ることは、自然と溶け合うような暮らしに親しんできたように思います。
最近の木造建築は高気密高断熱が当たり前で、窓には複層サッシやシャッターを備え、全館空調で快適な生活を四季を問わず過ごすことが出来るようになりました。
しかしながら、折角四季の移り変わりを毎年感じられる日本に生まれたならば、先進の性能や機能を兼ね備えた木造軸組工法の住宅であっても、ときには窓を開け放って風を感じ、四季を感じる贅沢を天然木の風情の中で享受することは代え難い価値があるように思います。
そんな観点からも、天然木の本格木造建築を考えて頂ければ幸いです。